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欧米の主要国で脱施設化よりも遥か以前に確立された触法精神障害者の処遇制度は、本来今日の医療理念とは相容れない社会防衛的色彩の濃い施策です。触法精神障害者にどのように対応するかをめぐって、精神医学は包摂と排除という両極の間を揺れてきました。精神医療事情が欧米と大きく異なる日本は特殊病院も保安処分制度も持たず、精神医学の刑事司法への関わりは限られていましたが、2005年の医療観察法の施行から、地域ケアやノーマライゼーションという医療理念と整合するかたちでの司法精神医療の創設が求められるようになりました。周回遅れだった日本が一気に世界の先端に躍り出た観があります。新しいシステムの行方には多くの未知数がありますが、触法精神障害者を置き去りにすることなく精神医療改革を実現するにはいかにすべきか、これこそいまの日本の精神医学に与えられた最大の課題です。 本書は、刑事司法と精神医学の出会いと交錯の歴史を具体的事例に沿ってかつ医学の側に軸足を置いて描き出し、我々が直面している現代的課題に対処する鍵を追求します。