日本美術のスペシャリストとして働くオークショニア・岩倉瑞生は、その審美眼から若くして評価される美貌の三十二歳。父は日本美術史界の権威であり、業界の人間なら誰もがその名を知るほどの有名な岩倉一生――その父に、瑞生は幼い頃から日本美術についてのありとあらゆる知識を教え込まれていた。それは呪いのように瑞生自身を縛り、父が亡くなった今も重くのしかかっていたが、何の因果か、知識を活かしオークション・スペシャリスト＝オークショニアという職業にたどり着いた。　そんなある日、長年扱いたいと切望していた応挙の作品を所持する老人が居るとの情報を元に鎌倉を訪ねる瑞生。しかし、信頼を勝ち得ることができず、すげなく断られてしまった。どうしても諦められない瑞生は、なんとか口説き落としたいと、まずは依頼主の孫・川瀬誉也から懐柔しようと近づくが、彼との出会いが、瑞生自身の生き方に大きな変化をもたらすことに――？