おすすめコメント
自伝を読み解く魅力を探る 本書は「無言館」館主が、自らの「生」と「性」とを重ね合わせながら、先人たちの自伝を読み解く、一風変わった読書案内である。数ある自伝の中から採り上げられているのは、大岡昇平『幼年』『少年』、室生犀星『性に眼覺める頃』、相馬黒光『黙移』、山口瞳『血族』の五作品。『幼年』『少年』は作家の「自意識」と「性」の生長過程を入念に掘りおこした作品で、全体に流れるストイシズムとも自己抑制ともつかぬ文章の諧調に魅了されるという。『性に眼覺める頃』に著者は、生母を知らぬまま育った生いたちと重ね合わせ、この作家にある倒錯的な性向や嗜虐的な生活に奇妙なシンパシーを感じとっていく。『黙移』の魅力は、大正、昭和という時代に自由を求めて生きた一人の女性烈士の言葉一つ一つが、少女の手紙のようにまっすぐに届くところにあるという。『血族』では、作家が血の真実に向かって歩く業の悲しみがあると著者は指摘し、「自伝中の自伝」と絶賛している。総じて「自伝」ほど、読み手にとって作家の余罪を追及する楽しみの与えられている読みものはないと、その魅力に迫っていく。