おすすめコメント
ピーター・グラルニックは、これが決定版と言えるプレスリーの伝記全二巻を書き上げた。前半『メンフィス行き最終列車』(原題)を手にした読者は溜飲を下げた(原書1994年、邦訳『エルヴィス登場!!』ユーリーグ刊、1997年)。そして、その後半、『ケアレス・ラヴ』(原書1999年)の邦訳が本書である。前巻についてボブ・ディランは、「…紙面からエルヴィスが飛び出してくる。エルヴィスの息づかいが感じとれる。この本は他のエルヴィス本すべてを抹消してしまう」と語った。もちろん、このコメントは、続巻である本書にもそのまま当てはまる。エルヴィスの伝記は、きわめて侮蔑的なものや、神話、偏見、誇張、歪曲、思い入れ、感傷に彩られた物語が巷に溢れすぎていた。グラルニックは神話、伝説ではない一人間としてのエルヴィスを描ききった。音楽そのものに耳を傾け、長年培ってきた感性にしたがい、音として表現されたものを描写する。そのときどきのエルヴィスの気分、意欲、健康状態などに目配りしながら、個々の歌唱に注意深く耳を傾ける。コンサートの出来不出来の詳細についても、当時の報道、評論家の感想、残された録音などをもとに、事実を提示し実像を明らかにしていく。事実にすべてを語らせることに徹した永遠不滅の傑作伝記である。