出版社コメント情報
「コーラ」──「場」を意味するこの語が、世界の起源、宇宙の生成をめぐるプラトンの後期作品『ティマイオス』において、特異な思考を展開する。感性的なものでも叡知的なものでもなく、メタフォールでも字義通りの指示でもなく、これでもなくあれでもなく、かつこれでありあれであるもの。パラドックスとダブルバインドをいかなる水準でも還元しないそのポジションなきポジション「コーラ」を、ジャック・デリダが読み解く。二項対立を避けつつ否定神学をも斥けるという、困難な隘路を縫うようにして進むとき、そこに留保なき唯物論の場が拓かれる……。『パッション』『名には触れずに』と並んで《名についての試論》三部作のひとつとして1993年に刊行された本書『コーラ』──その射程は、哲学的議論のフィールドを越え、社会的・政治的思考(近年のデリダによる「歓待論」など)や、フェミニズム(クリステヴァの「コーラ」概念把握との差異)、さらには、建築(アイゼンマン+デリダ「コーラル・ワークス」、磯崎新〈間〉)の分野へも広がりを見せる。プラトン読解において展開されたその鋭角的かつ忍耐強い思索は、〈場〉をめぐるあらゆる思考と営為に影響を与えて止ま