出版社コメント情報
臨床場面で患者と会っていると,患者の家庭の文化というものを感じることがある。一つの家庭には一つの文化があるのではないかと私は思う。その文化は大抵は父親の文化と母親の文化が混ざったものである。成長とともに,人は家庭の文化から出て,学校や地域や職場や社会という文化に属するようになる。患者はいくつもの文化的体験を経て治療者と出会う。同じように治療者にもいくつもの文化的体験があり,患者は治療者の属する治療文化の中に入ることになる。治療者の属する治療文化の中で,治療者の文化と患者の文化の交流が起こる。すると治療者と患者の二人の文化が生まれる。治療が濃密になるほど,その傾向が強いように私は思う。他の治療に比べて精神分析的治療では,治療文化の形成過程が顕著であるように思う。なぜなら治療文化を育みながら,それを扱うことが精神分析的治療文化であるからである。(「序文」より)