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めまぐるしく移ろう時代の流れの中で,心理臨床も常にその時々の要請に対応し,さらにその質を向上させることが求められている。本書では,わが国の心理臨床の礎を築き,先頭に立って牽引してきた三人の先達,村山正治,平木典子,村瀬嘉代子が,それぞれの講義の中で自身の臨床の原点を振り返り,心に留め置くべきポイントやヒントをちりばめながら,臨床スタイルの確立に至る道のりを語る。第Ⅱ部では,第一線で心理臨床の仕事に取り組んでいる臨床家による,各講師への講義の内容をふまえたインタビューを収載し,三人の仕事をさらに深く明確に浮かび上がらせている。また,第Ⅲ部で,講義の企画者である大正大学カウンセリング研究所の教官により,心理臨床における各領域の現状が心理職の心得とともに述べられる。斯界の大家が紡ぎ出す珠玉の言葉は,臨床家に多くの気づきをもたらし,日々の営為の糧となるに違いない。本書の全体を通読することで,心理臨床の過去から現在,そして近い将来の課題とその先の展望を読み取ることができるであろう。