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心理療法について論じた本は多くあるが,心理療法のセッションをありのままに記述した本は稀にしか存在しない。ポール・ワクテル自身による3セッションの逐語録を詳細な解説とともに収録した本書は,ワクテルがリードしてきた統合的心理療法をケースで学べる理論書であり,「心理療法において本当は何が起こっているのか?」を具体的ケースに即して検証する臨床実践書でもある。精神分析と行動療法を基礎として,他のさまざまな学派との接触を糧に改訂を繰り返し,認知行動療法,システミック・アプローチ,ヒューマニスティック・アプローチの要素を併せ持つに至ったワクテルの統合的心理療法は,『心理療法の統合を求めて――精神分析・行動療法・家族療法』『心理療法家の言葉の技術[第2版]――治療的コミュニケーションをひらく』(いずれも金剛出版)の理論的考察を経て,ついに本書においてその具体的な実践スタイルを明らかにする。ページをめくるたびに,セラピストの耳の傾け方,言葉の使い方,表現のニュアンス,共感の示し方,クライエントへの注目,治療関係の築き方がワクテル自身のコメントとともに披露され,単純にマニュアル化することができない心理療法のより深い理解に読者を誘う。統合的心理療法をリードしてきたワクテルが自らのセッションを披露した,一歩上を行く心理臨床をマスターするための必読書。