出版社コメント情報
いにしえより,食物が原因となる健康被害,すなわち「食中毒」は広く知られていたようです。たとえば,古代ギリシャ・ローマ帝国時代にはすでに「食中毒はソーセージのような腸詰め食品によって起こる」という記録があります。この原因はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)と考えられますが,この菌の名前は19世紀の欧州の医学者によって,ラテン語の腸詰め(botulus)に由来して命名されました。それから数千年後の現代では,さすがにボツリヌス菌などによる食中毒は少なくなっていますが,その一方で,他の原因物質による健康被害が依然として大きな公衆衛生学的問題として残っています。特に,腸管出血性大腸菌やノロウイルスなどが原因の食中毒事例は,毎日のように報告されております。 いうまでもなく,食物が原因となる健康被害を少なくするためには,原因物質の種類やリスクに関する正確な知識を基盤とした制御技術を,食品衛生の現場で駆使することが必要不可欠となります。 このような背景から,本書は具体的かつ実践的な「食の安全性」を食品衛生の現場で確保することを目的に企画しました。 (木村博一「はじめに(抜粋)」)