出版社コメント情報
結晶多形は医薬品を始めとするファインケミカル分野で重要な研究課題として注目されている。気体,液体,固体の三態のうちで,明確な構造をもつものは固体だけである。そして,固体の融点は物質に固有な性質であるとして固体物質の確認法として定着している。しかしながら,このことは多形の出現によって覆されてしまっている。つまり,ある化合物の固体状態における性質が一義的ではなく,融点のみならず,密度や溶媒への溶解度,それに昇華圧などの基本的な性質が結晶構造によってことなることが明らかになり,しかも多くの化合物でこの事例が見出された結果,今までは化合物には多形があることを前提として研究開発が行われるようになってきた。 特に医薬品の分野では多形が異なると,異なる物質の扱いを受けるために,特定の多形を安定して生産する技術の開発は必要不可欠である。 本書は,そのような現状を踏まえて,結晶多形現象の基礎的なことがらはもちろんのこと,多形の制御・予測・スクリーニングといった最新の研究成果,多形間の転移現象と速度を実例にもとづいて解説する構成とした。さらに,医薬品を中心とする開発の実例を紹介するとともに,これまでに見出されている結晶多形の報告例を整理し,データベースの構築を試みた。このために,大学や企業における結晶多形の研究者の協力を得るとともに,情報の提供をいただき,従来の類書にない充実した内容のものが出来上がったと自負している。 本書が結晶多形の研究・開発の一層の発展に貢献できることを念願している。 2005年8月 東京農工大学大学院 教授 松岡正邦