出版社コメント情報
1935年(昭和10年)の芥川賞の創設をひとつの文学的事件として、芥川賞受賞作品をさかのぼって取り上げながら時局を語るユニークなスタイルで、戦中から敗戦までの10年間の文学風景に焦点を当てて描く。当時の作家群像――室生犀星、芥川龍之介、永井荷風、佐藤春夫、太宰治ほかの同時代の作品や活動を検討するほか、堀田善衛の創作実践から敗戦後の日本と中国を論じる。内務省警保局長として思想対策に辣腕を振るった松本学が主導した文芸懇話会をめぐる直木三十五、佐藤春夫、中野重治たちの動向。学問の自由と大学の自治への統制に対する危機感から結成された学芸自由同盟と直木三十五の対立。小林秀雄の特派員としての中国行と「積極的思想統制」案。佐藤春夫の戦中から戦争直後の思想――。芥川賞受賞作を「銃後」「外地」「皇民化」の視点から読み解き、「戦時昭和」期の国内の作品や「外地」での文学がどう読まれたのかも緻密に考察することで、社会と文学との相互浸透を解明する労作。