出版社コメント情報
脳のなかには複数の地図があって、それらが私たちの空間知覚の基礎をなしている。哲学者バークリーや科学者ロッツェは、空間の経験を理解するために決定的に重要なのは、私たちが身体を動かさなくてはならないことであり、そこにはマップが必要だと主張した。私も同じ意見だ。ものを見るとき、眼は物理空間のさまざまな方向からくる光を受けとり、次に脳がその物理空間に位置づけられた行為を産み出す。視覚の最初の段階は、眼のなかでの像であり、その次にくるのが後頭部にある粗いマップである。・・・・・・。そしてそれらのマップにはかならず空間的要素があって、次の段階に欠かせない。視覚から行為にいたるこの経路には、マップが消えて「空間の視覚的意識」が現れるといった、謎めいた横道などない。空間の視覚的意識というのはたんに、網膜から行為にいたるさまざまなマップの活動そのものなのだ。(「はじめに」より)