出版社コメント情報
生命倫理学の登場以来,医療倫理に関わる問題として医療者と患者の関係,患者の自己決定の権利,インフォームド・コンセント,生殖医療,移植医療,終末期医療,医療者の職業倫理,ケアのあり方,医療資源の配分,倫理委員会のあり方等々とともに,それらを論じる倫理的原理や法について問われてきた。その際,治療とはいかなることか,医療とはそもそもいかなることであるかは,多くの場合,暗黙の了解とされてきた。しかし,最近のエンハンスメント問題への注目が示唆するように,そうした暗黙の前提が揺らぎ始めており,医療の本質を問うことは,今や生命倫理や医療倫理が避けて通れないことがらとなってきている。その問いは,健康とは,幸福とは,成熟とは,正常とは,自然的とは,人間とは,といった哲学・倫理学の基本概念について問うものであり,本格的考察には多岐にわたる視点が必要である。本書はそうした根本問題に対して,哲学,倫理学,医学,看護学,法学,社会学,人類学の観点から迫るものである。自明とされてきた医療や治療の概念をこれまでとは別の視点で再検討し,医療という概念にあえて揺さぶりをかけることを通じて,医療倫理の新たな基礎づけの序章となることを本書は目指している。