出版社コメント情報
高等教育機関としての大学の組織運営の自律性とは、どのような様式と方法で保証されるのだろうか? 本書は、今日の日本における大学の組織運営のあり方について示唆を得ることを目的に、高等教育分野の教育経営研究の視座から、大学をとりまく環境が激変した第二次世界大戦後初期の大学改革構想を考察したものである。個別大学や大学関係団体に残された議事録等を手がかりに、当時の大学が自律的な組織運営のシステムを構築するうえでいかなる問題に直面していたのかを実証的に解明している。 具体的には、東京商科大学(現一橋大学)と東京工業大学に注目し、それぞれ大学の学長であった上原專祿(うえはらせんろく)と和田小六(わだころく)の大学改革構想および改革過程に注目している。実質的には旧制度を温存したとみられる新制大学の意思決定の枠組みにおいて、個別大学ではいかなる組織運営の改革が展開されていたのか? 本書では、戦後初期の史資料に基づき、これまで明らかにされていなかった東京商科大学における改革構想およびその実行に際して生じていた葛藤や、東京工業大学における機動的な組織再編や合意形成の実態に接近している。特に、上原と和田の改革理念やリーダーシップに関する検討は、今日の大学組織運営における学長の主導性のあり方を追求するうえで有効な視点を提示するものである。