出版社コメント情報
滑稽本、合巻、雑俳・狂歌、絵本、歌謡など、「膝栗毛もの」の文学作品を現存する最良の底本で集成。 刊行によせて 中村正明 いつのことだったか、ある古典文学に関する調査において、「あなたの知っている古典文学作品の登場人物を書いて下さい」という設問があり、その回答は「光源氏」と「弥次郎兵衛・喜多八」の二つが群を抜いて多かったという。光源氏と並んで広く名の知られた弥次喜多は、十返舎一九が『道中膝栗毛』で産み出した主人公の二人である。 『道中膝栗毛』は、享和二(一八〇二)年の刊行当初から非常に人気を博し、何十年にもわたって続編が書き継がれて大流行した滑稽本である。そればかりか、メディアミックスも盛んに行なわれ、合巻化されたり、一枚摺の錦絵化、歌舞伎化や落語・講談の種にもなった。明治以降になると、映画、ドラマ、漫画など様々なメディアでも描かれるようになっていった。現代においても弥次喜多の知名度は高いと言えよう。 そうした膝栗毛人気に乗じて、『道中膝栗毛』刊行と同時代においても、非常に多くの影響作・亜流作が産み出されたことは案外知られていない。それら、所謂「膝栗毛もの」は、一九自身の作品を除いてその全貌はほとんど解明されておらず、どのような作品がどれほどあったか全く手つかずのままなのである。 本企画では一九作品を手始めとして、数多い「膝栗毛もの」の文学作品を現存する最良の底本で紹介していく。それは、滑稽本に限らず、合巻や雑俳・狂歌、絵本、歌謡に及ぶ。 かかる「膝栗毛もの」文芸の通史的な集成によって、それを享受した読者層?江戸庶民という新興の文学読者たち?の興味嗜好が判明していくわけであり、文化遺産としても珍重されるものとなるであろう。