出版社コメント情報
戦後70年―戦争の危機と核の時代に向けて発信する反戦女性文学論集。刊行にあたって── 21世紀を迎え、だれもが戦争も暴力もない世紀の到来を期待したはずだった。だが9・11同時多発テロ以降、アメリカはテロへの報復としてタリバン政権掃討から対イラク戦争へと突き進み、2003年の戦闘終結宣言以降も火種は治まることなくくすぶり続けている。こうした状況のなか、かつて15年戦争において、加害と被害の経験を同時に持つ国であるはずの日本も、アメリカおよび列強への動きに歩を合わせていると言わざる得ない。かつて戦争下の総力戦体制下において女性たちもそのほとんどが何らかの形で戦争協力を行った苦い経験を持っている。そうした女性たちと、それを先導した女性作家たちの戦争責任を検証するなかで見えてきたのは、女性たちが二流国民として抑圧されている存在であるからこそ主体的に国策を担い、自らの自己実現や女性解放への希求すらも国家にからめとられていったという皮肉な実態だった。しかしその一方で、女性作家たちは、国家の要請からはみ出し、それと抗争する抵抗の表現を紡ぎ出していたことも忘れてはならない。この21世紀の新たな状況を手探りで生き始めた私たちにとって、この1冊が、文学に何ができるかを改めて問いなおす一つの手がかりとなるであろう。