出版社コメント情報
昭和22年、先の大戦で戦死したと伝えられていた落語家が突然、帰郷した。<男>の名前は、森乃家うさぎ。戦前に人気・実力ともに認められた落語家だった。だが、かつての面影はない。顔面の大半が包帯で覆われていたうえに、一切の記憶を失っていたからだ。<男>は、かすかな記憶を辿るように、得意としていた演目“粗忽長屋”を虚ろな口調で呟くだけだった。
<男>は、満月が輝くその街で暮らし始める。そして、婚約者だった弥生の支えで再び高座に上がり始めるなど、次第に立ち直っていく。そうしななか、ふいにもう一人の<男>=岡本太郎が帰郷してくる。二人の<男>の正体とは……。傷を負った二人の男と一人の女に、あまりに過酷な運命が襲いかかる。