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山と海のある素朴な自然と幾多の芸術家たちが居した文化の香りの濃い空気感に惹かれて鎌倉に移り住んで約十年が経った。絵を描く合間に気紛れに散策しては妄想に耽り、脳裡に響いてくる言葉を拾い集め、書き留めた。やがて言葉は虫のようにあちこちへと飛びまわり、這いずりまわって、なんとなく不恰好な巣を形作った。その生暖かいような巣の中に自閉することで、取り留めのない想いはさらに増殖的に巣作りをくり返した。それでもそこには、こまやかな小世界が形成され、それを見知らぬ誰かにこっそりと覗き見てもらうのも、また、幸いである。(本書「あとがき」より抜粋)