レビュー
すぐれた時代小説はそのまま現代小説である、というのはよく言われることだが、時代劇ドラマもまたしかり。もっとも、本シリーズの放映が始まった72年の1月1日、筆者は12歳で、このドラマに原作(笹沢左保)があることなどまったく認識していなかった。市川崑という監督(厳密にはシリーズ全体の監修と1~3、18話の監督)の名もむろん。それでも、子供心に、ほかの時代劇(『水戸黄門』など)とは違う、同時代感覚にあふれたドラマとしてとらえていたことは事実だ。今なら、60年代末の学園闘争が収束し、運動が陰惨な内ゲバ抗争と化した時代のニヒリズムが紋次郎というキャラクターに反映している、とわかったふうなコトを言えば言える(連合赤軍あさま山荘事件が起きたのは本作8・9話放映時の72年2月下旬だった)が、12歳の田舎の中学生には、画と音そのものからのインパクトがとにかく強烈だった。浪人旅人というよりはルンペンというべきうす汚い身なり、潔くも貧しい食生活(めしと汁と焼き魚とたくあんを全部一緒くたにして10秒でかっこむ!)、終始口にくわえたままの15cmもの長い楊枝、寝たり転んだりぶつかったりのワイルドなというよりは下手っぴいな剣術、寒々とした山村田圃のロング・ショット。筆者が個人営業の物書き稼業などになってしまったのは幾分、紋次郎のせいかもしれない(たしかに食生活は貧しいゾ)。そうして何より、ビデオ・クリップ時代を先取りしたようなオープニングの斬新な映像と上條恒彦の力強い名唱「だれかが風の中で」(小室等作曲)。人情に裏打ちされた虚無というものがあることを、当時以上に虚無感が深まっているいまの若い世代に観てもらいたいなあんて言ってみたいが、なに、あっしにはかかわりのねえことでござんす。13話に登場の市原悦子(当時36歳)の悪女ぶり、麗し。 (大須賀猛) --- 2003年02月号 -- 内容 (「CDジャーナル・レビュー」より)
監督・監修: 市川崑 監督: 窪川建造/池広一夫 原作: 笹沢佐保 出演: 中村敦夫
-- 内容(「CDジャーナル」データベースより)
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