アニメラマに限らず、虫プロダクションの作品には、ちょっとアーティスティックな部分があるのですが、この『哀しみのベラドンナ』はその中でも頂点を成す作品です。
『千夜一夜物語』『クレオパトラ』に続く大人のためのアニメーションの第3作ですが、スケールの大きな歴史絵巻であった前2作とは、ドラマも映像の作りも大きく異なっており、キャッチフレーズも「アニメラマ」から「アニメロマネスク」に変更されています。原作は歴史学者ジュール・ミシュレの「魔女」。中世フランスの農村を舞台に、より強烈なエロティシズムと沈痛なリリシズムで、愛する夫のために悪魔に肉体を売った女性、ジャンヌの哀しき物語を描いています。映像的には、挿絵画家の深井国をフィーチャーし、彼のイラストのイメージで全編を制作。セル画のテイストを極力排し、静止画を多用する、あるいはイラストを動かしてしまうという実験的なスタイルが採られました。中でも映画の中盤、ジャンヌが悪魔に身と心を委ねた後の、イメージが洪水のように溢れかえるシークエンスは圧巻。まるでドラッグムービーです。
これほどの内容であるにも関わらず、『哀しみのベラドンナ』は公開後、ほとんど振り返られる機会がありませんでした。アートアニメーションが脚光を浴びている今だからこそ再評価されるべき作品でしょう。
ストーリー
中世フランスのとある村。ジャンとジャンヌの婚礼の日、領主は貢ぎ物の代わりにジャンヌを犯し、家来達に輪姦させた。村は飢饉だったが、悪魔の力を得たジャンヌは紡いだ糸を売って生計を立て、そのおかげでジャンは税金を取り立てる役人になる事ができた。だが、戦争の資金が調達できなかったジャンは左手首を切り落とされ、やがて、ジャンヌは悪魔つきとして村人に追われる事に。ジャンにも見放されたジャンヌは、身も心も悪魔に委ねて、魔女となった。黒死病が村を襲い、人々は倒れていった。ジャンヌは毒草ベラドンナを使い、人々の病を治すのだが……。
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